解決支援者の現場日記 : 旧ブログ
訪問支援活動(アウトリーチ)
15日の毎日新聞に「社会的ひきこもり」の著者斎藤環氏のコラムが掲載されていました。
「青少年育成施策大綱」に明記されている訪問支援活動(アウトリーチ)にふれ、支援法がまだ確立
されていない中で実施されることを懸念し、「くれぐれも慎重であってほしい」と述べられていました。
これまでにあった一部の民間支援団体の拉致監禁まがいの手法による死亡事件や傷害事件を例に
あげ、有効性以上に倫理性に配慮してほしいと述べられています。
倫理性とは、訪問対象者の人権や主体性、プライドを徹底して尊重するという姿勢であると。
随分以前に放映されたテレビ番組のひきこもり特番の内容から私の見解を述べてみましょう。
10代のひきこもりの息子の頭に、「いいかげん目を覚ませ!」とシャワーの水をかけている父親や、
無理やりひきずり足蹴にしている父親の姿が映し出されていました。
その光景を腕組みしてじっと見ている女性の支援者。時折、激しい(女性とはとても思えない)
口調(罵声)で、親を挑発し、子どもへ説教させ、自身も子どもをののしっていました。
説教が親にとっても、支援者にとっても一番簡単な方法。しかし一番徒労に終る方法です。
甘えだけでひきこもっている子どもの場合はいいでしょう。
大切な事は、「何が問題解決した状態か?」という事です。
部屋から出すことが解決であれば、まさに“引きずり出す”ことで解決になります。
でも、本質である親との問題や、対人関係の問題は解消されないどころか、さらに深まり、親子の絆は
より切れかかるでしょう。
番組の家族も、母親と妹は別居しており、父親と息子だけが生活していました。
別居の理由は、息子の暴力ということでしたが、母親が逃げたのは、暴力からではなく、我が子から
あびせられる、苦悩からの絶叫を聞くことが出来ない。つまり、現実からの逃避です。
恐らく息子は、母親に見捨てられたと、恨んでいるでしょう。
また、いきなり他人(女性支援者)を連れて来て、いきなり慣れない説教を始め、部屋から引きずり出
し、強制的に親元から引き離す。
これで父親にも恨みが増したことでしょう。「とうとう親父まで見捨てやがった」と。
特に私が憤りを禁じえなかったのは、カメラの前に子供をさらしたことです。
あの場には、カメラマン、音声、照明、ADと複数のスタッフの方がいたでしょうが、その前で一方的に
蹴られたり、水をかけられたり、罵声をあびせられる子供の気持ちをどう考えたのでしょうか。
「人権」の観念のないまま“ひきこもり問題”に対処すれば、子供たちにさらに傷を与えることになりま
す。
子供に向き合えない親のもとでひきこもりは長期化し、恐れず説教することを向き合う事と勘違いして
いる親のもとで、子供の傷はさらに深まり絆は断たれます。
向き合うということは、子供たちの「傷み」に向き合い、「ぬくもり」で癒すことだと、日頃の支援活動の
中で私は感じています。
斎藤氏は、訪問支援者の資質に言及しておられました。
経験者が向いているとも限らない。「人は自分が抜け出したばかりのあやまちに最も厳しい」(ゲーテ)
からだ。
他者への畏れと自らの行為に対する懐疑を常に忘れないこと。
これこそが、いかなる知識や資格にも増して重要な資質であろう。
私自身は、当事者が自己理解を深め、自己責任のもとでより良い意思決定ができるように援助し、
社会の中で自分らしく主体的に人生を歩んでいけるように忍耐強く後押しできる資質が必要だと
思っています。
自己の無力さを自覚した、慎み敬いの態度が重要だと思います。
「私が助けてあげよう」など思わないことです。
この訪問支援については、安易な目的、手法もまま見られるようですので、次回も少し取り上げたい
と思います。
ひきこもり無償支援活動〈たらちねサポート〉事業
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