解決支援者の現場日記 : 旧ブログ
ひきこもり=病気論は免罪符?
「いっそ病気であればどれだけ救われるか」
この言葉は、相談者から時々聞かれます。親御さん方の本音の心境だと思います。
躾がなってない粗暴な子と思われていた子どもたちの一部が、広汎性発達障害といった病だという
ことが分かってきて、学校内での対応も図られてきました。もちろんまだまだ一般レベルの認識は
不十分で、差別、偏見はあるようですが、周囲から親としての立場、プライドをぼろぼろにされ、自身
責めさいなんできた親御さんたちにとっては、どれだけの救いになったことでしょう。
そういうことからも、「ひきこもり」においても病気であってくれた方がとの気持ちは分からなくはあり
ません。
しかし、私がこれまで関わってきた長期不登校、ひきこもりのほとんどの青少年たちが、何らかの
病気を原因としたものではなく、明確な原因があってのものでした。だからこそ、治療行為による回復
ではなく、原因となったところの問題改善、解決により本来の自分を取り戻していきました。こう申し
ますと、軽度のひきこもりではとの質問がありそうですが、ほとんどが20代後半以上であり、10年を
越す相談もめずらしくありません。
『引きこもり動態論』というものを目にしたことがあります。ひきこもりが始まり、約8割が疾病に移行
し、さらには障害化するというのです。確かにある相談者は、医者から「10年を越しているならもうあき
らめなさい」と言われたと嘆いていました。もちろん、医療機関と連携して、劇的な回復をしたケースも
ありましたし、対人恐怖や強迫行為などが見られるのはよくあります。しかしそれらも、治療ではなく、
原因の解消により漸次緩和されてきます。
精神疾患や障害によるひきこもりや、当事者や家族の高齢化によって、家庭が破綻してしまい社会的
救済が必要とされるひきもりの場合は、医療、福祉行政の対策が求められると思います。
現実、ある保護者団体では国に要望書を上げ、精神保健福祉法の適用やひきこもり支援法の創設、
福祉介護保険の対策などを訴えています。これが実現できれば、特に両親が高齢であったり、片親
家庭にとっての救済策になろうかと思います。
しかし同時に、最後の手段としての社会的救済策だけをこいねがうのではなく、長期化しないための
具体的取り組みこそ実行していかなければならないと思います。
『引きこもり動態論がなかなか理解されず、いたずらに放置され(省略)社会にも深刻な次世代問題
となっている。ところが現状は、残り2割の無病理性の当事者や不登校組の肯定論が強調さ
れたり、社会の認識では親の甘やかし、子の甘ったれで済まされている』
といった主張の中には、なぜ疾病に移行してしまっているのかといった部分への議論より、社会の
認識の不適格さが強調されているように感じられます。
それはまさにいたずらに長期化が放置されたからではないでしょうか。
ひきこもりは、長期化していけば何らかの病理性が出てくる可能性が高まるのは当然です。早期解決
をはかり、長期化させないための取り組みがおざなりになり、結果として病気になってしまったから、
救済の手立てを腰の重い国に求めるのでは、日々進行しているひきこもりを止めるためのクサビには
ならないと思います。
飢えや寒さをしのぐために、食料や毛布を与え続けるのではなく、自らが作物を生産できる方法を伝え
てあげることが、途上国への真の救援策であるように、長期化させないための家庭での取り組み策を
考えていくべきだと私は思います。
『社会の認識では親の甘やかし、子の甘ったれで済まされている』と述べられていることからも、
ひきこもり=病気論が親のための免罪符になってしまっているのではないでしょうか。
当協会が関わってきた家庭は、単なる甘え、甘やかしでひきこもった家庭ではありませんでした。
もちろん、病理からひきこもったケースもごく一部です。当協会だけにそういった家庭が集中するとは
思えません。ほとんどがそうなのではと思います。
それぞれの家庭が、ひきこもった原因を探り、長期化した要因を改善していったことで、打開していって
るのです。子どもは、家族病理の拡大鏡であり内視鏡です。家庭のありよう、水面下の問題を大きく
そして、鮮明に映し出してくれます。
当事者家族の方々は、社会の認識という「世間」の無責任な批評をはね返す勇気をもってください。
青少年たちは、家族の救援者です。私たちにさまざまな気づきを与えてくれます。
親と子が、互いに求め合う中での矛盾を解きほぐしていくことで、睦びあう家族に再生していけるの
です。
この件については、次回も論じさせて頂こうと思います。
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