解決支援者の現場日記 : 旧ブログ
ひきこもり20年の当事者の生の声③
引き続き青年の手記をご紹介します。
長くひきこもっていると、いろんな所に支障が出て来ます。
健康と対人関係など自分の場合もおかしくなっていました。
まず対人関係、性格にもよるんでしょうけど、とにかく喋れない、もともと喋る方では無いの
で、人と喋らなくても何てことは無かったのですが、必要な時に声が出なくなります。
家にいても親とも顔を合わさず話さない、話がある時でも会話は必要最小限だったので、
外で慣れない人と話す時は、緊張して相手の目を見れない・思った事が口に出て来ない・
大きな声が出せなくなって、挙動不審に見えたと思います。
情けない話ですが、年相応の知識・経験・常識も無く、一人では役所関係の手続き一つ出来
ません。
たまにテレビで、自宅で亡くなった親の遺体をそのまま放置して、逮捕された人が「如何した
らいいのか分からなかった」と供述したというニュースを見た時、「あー自分もこうなるな」と
思う事もありました。
(中 略)
次に今でも続いている癖というか病気というか、なかなか治らない事があります。
妄想癖と潔癖症です。
まず、妄想癖、多分引きこもる前からやっていたと思います。
まあその頃は子供が自分の将来の夢を思い浮かべるような程度、引きこもってからは現実
逃避の手段として、起きている間はずっと妄想をしていました。
現実はダメ人間でも、妄想の中では超人ですよ(笑)。
筋トレの最中も、歯医者で歯を削っている最中も妄想妄想・・・・・。
そのうち妄想のし過ぎで、現実かどうか分からなくなる・妄想をコントロールできなくなるよう
になってしまいます。
(中 略)
引きこもっている間に、世の中ではいろんなことが起こっていました。
湾岸戦争が起きたり、阪神・淡路大震災が起きたり、二十一世紀になったりと、色々・・・。
自分は何も変わらず、ただ年を取っただけ、二十歳になり三十も超えても、何も変わらず
いました。
毎日毎日何の刺激も受けずにいると、無気力・無関心・無感動と何に対しても興味がなく
なって、如何でもよくなってきます。
自分の誕生日すら、なんとも思わない・考えない、思考自体が停止してしまう状態でした。
動作も遅くなり時間だけがかかって、今まで出来ていた事も出来なくなって行きました。
よく引きこもると、そこで時間が止まってしまうと聞きますが、何も変わらないんじゃないん
です。
何もしないでいると、知力・体力とも退化する一方です。
引きこもっていても、日頃から何かしている人と、何もしていない人では能力的にも、意識的
にも違ってくるのは当然だと思えます。
それは本人の性格か、周りの環境の問題かは分かりませんが、人間生きて行くには、何ら
かの刺激が必要みたいです。
死んでいるみたいに生き、寿命が終わるのをただ待っていた感じでした。
では、解説しましょう。
私が現在関わっている青年の中にも、二年以上も声を発していない青年がいます。
声どころか、顔すら家族に見せていません。
私とはいつも筆談でカウンセリングをしています。
また、人から中傷されたことをきっかけに、自分から人を避け、会話をしなくなってひきこもり、数年
経って会話の要領を得なくなってしまった青年もいます。
この青年は、「挨拶をされてもどう答えていいのかすら分からなくなった」
「声をかけられただけで、緊張から嘔吐してしまうようなこともあった」と言っていました。
前回も妄想、思考停止についてはお話ししました。
この手記の青年も言っているように、妄想の中では超人にもなれます。
昼夜逆転でネット依存になっているようなひきこもりのケースでは、より現実と妄想の区別がつかず、
仮想の世界にいってしまっている危険な状態もあります。
妄想は、考えているというよりもイマジネーション、想像の世界です。
ビジョンとして、そこに遊泳しています。
考える。思索するといったことは、ほとんどやらなくなってきます。
死んでいるみたいに生き、寿命が終わるのをただ待っていた感じでした。
この言葉は、ひきこもり状態の青年たちの心の中をよく言い表していると思います。
ひきこもりは、社会的には「死」を意味しています。
生きていることは、食事や睡眠をとっていれば自然と身体が生命を生かしてくれています。
自分でやっていることは、口に食物を放り込んでいることだけで、あとは全て身体が生命を維持して
くれています。
そういう意味では、生かされているんです。
私たちは大したことはやっていません。
しかし、生きていく。より良く生きていくためには、主体的な努力が必要です。
ひきこもる傾向にある若者たちは、変化への適応が困難な者が少なくありません。
ですから、変化を避けようとします。
また、新たなことへの挑戦は、失敗を伴いますので、失敗からの傷つきを過剰に避け、何もしない
という選択(それがひきこもり)を取ります。
結果、小さな失敗を避けたために、大きな失敗(ひきこもりによる代償)をしていることに気づけない
でいます。
また、時の経過といった変化にもうとくなり、年齢に応じた覚悟、責任感がもてず、自分が置かれて
いる社会的立場の認識ができず、「ひきこもりは何か迷惑でもかけているでしょうか?」と臆面もなく
主張します。
40代で、年金生活者の両親に扶養されていてもです。
依存的にしか生きられなくなっているので、より良く生きていくための主体的努力ができず、まさに
死んだように生きるしかできなくなっているのです。
食事と睡眠をとっていれば、生きながらえることはできます。
しかし、生命は生かされているものですから、それだけではそこに主体的な我がありません。
生かされている意味を自覚する。その意味を実現するためのはたらきをしていくことが生きていく
ということではないでしょうか。
人は様々な価値観をもって、意味を感じ取り、主体的な自由な選択ができる生き物です。
それが人としての尊厳性とも言えます。
その尊厳性を失いかねない、ひきこもるという生き方を見過ごしてはならないのです。
社会的な死の淵にある青年たちを再生(よみがえり)させていくことは、急務の課題です。
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