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解決支援者の現場日記 : 旧ブログでタグ「芹沢俊介」が付けられているもの

見守りか見送りか

前回に続き芹沢俊介氏の「引きこもるという情熱」から、問題点をあげてみましょう。

氏は、『少年育成』という雑誌の中でのある座談会の記事をあげ、「待つ」という保護的な関わり方だけ

ではなく、「押し出す」姿勢が必要と述べています。この座談会は、フリースペースの主宰者たちが、

フリースペースを離れたある青年が「この五年間何をしてきたんだろう」「もっと早く出ておけばよかっ

た」という感想をもらしたことから、通所年限を決めるようにしたという内容で、要はひきこもりの場所が、

自宅からフリースペースに変わっただけという事例です。

 

氏はこれに共感しつつも、押し出すタイミングが大切と述べています。

私は、ここにひきこもりが長期化していることや、支援施設を出た後も次の行動を取れない青年たちの

訳が見えた思いです。

 

待てば確実に長期化します。理由は前回述べました。

では、押し出すか?

なんとなく時期を見はからって押し出したところで、本人は途方に暮れるでしょう。

社会に参加できるだけの状態に導いてあげた上で、本人の意志で巣立たせるべきだと思います。

私の所でも、ある施設で四年間カウンセリングを受け、このまま社会へ参加できる実感がもてず、

カウンセラーに相談したところ、「私の手にはおえないから精神科にでも行って」と切り捨てられた青年

がいました。

30歳を前にしてです。その無念さたるや。泣きじゃくりながら訴えるその姿はとても痛々しかったです。

 

芹沢氏は、「待つ」から、本人に責任をもたせ、親は本人につき従う「見守る」に変えてみることを提案

しています。しかし、これは言葉ほどの違いはありません。

私は「見守り」は単なる見送り問題の先送りと言っています。

聞こえのいい、何もしない言い訳です。

親や支援者が一番手を抜いたやり方です。直視恐怖からの逃げの手立てです。

芹沢氏は、ある精神科医の話をあげ、本人との面接も治療もなく、親の見守る姿勢をサポートしただけ

という事例の対応法を、ひきこもりに対する基本的かつ正しい対応だと論じています。

この事例は、十年以上のひきこもりのケースですよ。

親の見守る姿勢をサポートって何でしょう? 何をしたのでしょうか。それとも何もしていないのでしょう

か。

芹沢氏の論調は、ひきこもりによって失われてしまうことがあることが見落とされています。当然長期

であればあるほどそれは大きな代償となります。

そしてまた、引きこもりの失敗と称して、自分が主張する「正しい引きこもり」ができなかったら、凶悪

犯罪者にもなってしまうといくつかの事件を引き合いに出し述べています。

一部のメディアや氏のような評論家たちが、ひきこもり=犯罪者予備軍といった誤ったイメージを社会

に与えていることに強い憤りを感じてしまいます。

 

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正しい引きこもりって?

以前に『親殺し』という本を読んだことを書きましたが、同著者の『引きこもるという情熱』を読んでみまし

た。

著者の芹沢俊介氏は、引きこもり現象を肯定的にとらえようとしていることと、「正しい引きこもり」を

提案したいと述べています。

 

ひきこもりを病理とみなすことへの疑問は私も同じですが、「なんとかしなければ大変なことになる」と

いう社会の声に対する疑問や人生の次のステップへ進むための大切な基盤となるという視点に対し

ては、少し意見を述べなければと思います。

 

全体を通して一番強く感じたのが、ひきこもるという現象により失われてしまうことへの認識に欠ける

ということです。それだけになんとか肯定化したいという意図が見え、ひきこもりへの意義付けに強引

さが感じられます。

事例がほとんどが芹沢氏自身のものではなく、いわゆる他者の事例に対しての評論です。

これは評論家であって支援者(氏の表現では「引き出し人」)ではない芹沢氏によるものであるだけに

やむを得ないとは思いますが。

 

引きこもりのプロセスとして往路⇒滞在期⇒帰路(復路)をたどるのが「正しいひきこもり」なのだそ

うです。氏の論調を見ていますと、プロセスを経て時期が来ればひきこもりから脱することができ、

それは新しい自分へ再生できると期待をこめて論じておられるようです。

 

はたしてそうでしょうか?

現実はそうはいかないようです。

ロジェリアンの来談者中心療法をふと思い浮かべましたが、クライアントの潜在的自己解決力を信じ

すぎ、説得してはいけない。教えてはいけない。と極めて受身的になってしまっているカウンセラー

のようです。

私がこれまで関わった青年たちの中にも、カウンセラー(臨床心理士など)との間の沈黙が怖く、

辛いといって、カウンセリングを継続できなかった青年が決して少なくありません。

 

ひきこもり状態の青年たちは、極めて思考に柔軟性を欠き、複数の行動の選択肢を持ち合わせ

ていないということを芹沢氏は知るべきです。

自己領域(芹沢)にこもることで「私は私のままでいい」という心境に至り、帰路へつけると述べています

が、残念ながら自力だけでその境地に至ると期待するのは淡い幻想でしかありません。

野狐禪(やこぜん)を彷彿させます。悟った気になっている独りよがりの思い込みです。

 

彼らには、新たな視点を提供し、選択肢を増やしてあげる手伝いをしていく必要があります

黙って話すし出すのを待っていたり、気づきを得るのをひたすら待っているだけでは、ただただいたず

らに時を経過させ、長期化(高齢化)、深刻化させ、解決を不可能にしてしまいます。病理を発症させて

しまうといったことにもなりかねません。

 

このことに関しては、芹沢氏の論評を踏まえ次回にも述べてみますが、教育評論家によるひきこもり

の分析がこういった内容であることに危機感を感じました。

芹沢氏は、ひきこもりを病理とみなし、治療の対象にしようとする者の中に、家族の不安をあおり、

ひきこもりを商売の種にしている人(精神科医?)もいると批判し、それが社会的背景、社会状況への

視点を脱落させてしまっているからだと述べています。

しかし、氏の視点は、当事者家族に現実の状況を見誤らせ、マニュアル的なプロセス仮説で、

期待感を増幅させ、終わらぬひきこもりのゴールを夢見させてしまっていると私は感じます。

そして氏が疑問視するひきこもり病理論を結果的に現実のものとしてしまうことに気づかれておられ

ないようです。

 

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