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HOME > 解決支援者の現場日記 > アーカイブ > ニート: 2021年1月

解決支援者の現場日記 ニート: 2021年1月

ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察⑦


さて、斎藤環氏の「中高年ひきこもり」について、私見を述べてまいりました。

氏は、「ひきこもることがふつうである社会」を目指すべきであり、「ひきこもりのいない明るい社会」は

意味がないと述べておられますが、私は、「ひきこもる必要のない人々の社会」こそ、素晴らしい社会

だと思っています。




前回紹介した【ネズミの楽園】でも分かったように、ひきこもり者たちには、「安心できるつながり」

というものが必要です。

これは、「安心できるつながり」があれば、ひきこもることもないとも言えます。

ひきこもり者たちは、「植民地ネズミ」ならぬ「自己牢獄」の中で閉じこもっています。

これについては「空虚が招く孤立」をご覧ください。

ですから、孤立させない社会があれば、ひきこもる必要性がなくなるのです。




では、そんな社会をつくるためにどうすればよいでしょうか。

ヒントになるものがあります。

明治天皇の「五箇条の御誓文」です。

この三条に「~各其の志を遂げ、人心をして倦まざらしめむことを要す」とあります。

「各自の志望を達成できるようにはからい、人々を失意の状態に追いやらぬことが

肝要である」
という意味です。

「志」をもたせるということこそが、自分らしくより良くいきていくために最も重要なことです。

私自身も座右の銘にしている「志立たざれば、天下に成すべきの事なし」(陽明学)

いわゆる「立志」、これこそが自身をいつまでも支えてくれます。




志は、周囲とのつながりも作ってくれます。

なぜなら、その志に共鳴共感賛同してくれる人たちが集まってくるからです。

前回、ひきこもりはどこの家庭でも起こり得ると述べたのは、現代家庭が、子どもたちに

志をもたせる教育がなされていないからです。

人に癒されないといった状態に彼ら、彼女らがなってしまっているのは、家庭環境にこそ

その原因があるのです。

斎藤氏は、「そもそも、ひきこもりの原因やきっかけを、育て方を含めた家庭環境に求めても

仕方ありません」と述べておられますが、社会をつくっているのは、一人一人の人間です。

その人間を育てているのは、それぞれの家庭です。

小社会としての家庭の集まりが「社会」です。

自己牢獄から救済できるのも家族です。




社会の偏見差別を無くすことで、ひきこもりが減るなんてことを言っていては、誰もが他人事となり、

長期化はさらに進むでしょう。

でも、家庭の変革は、親が本気になればすぐにでも出来るのです。

倦まず弛まず、自己をより良く成長させていくことを家庭で行っていけば、「ひきこもる必要のない人々の社会」

が実現するでしょう。

今回、斎藤環氏の「中高年ひきこもり」に、さらなる長期化の危うさを感じた部分について論じてみました。

(終わり)







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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察⑥


【ネズミの楽園】という実験があります。

32匹のネズミが、ランダムに16匹ずつ居住環境の異なる2つのグループに分けられました。

1匹ずつ金網の檻の中に隔離された「植民地ネズミ」と、広々とした場所に雌雄一緒に入れられた

「楽園ネズミ」です。

「楽園ネズミ」は、十分なエサやネズミ同士の接触や交流を妨げない環境になっています。

両方のネズミに対し、普通の水とモルヒネ入りの水を用意して与え、57日間観察しました。

「植民地ネズミ」の多くが、孤独な檻の中で頻繁かつ大量のモルヒネ水を摂取しては、

日がな一日酩酊していた
のに対し、「楽園ネズミ」の多くは、遊んだり、じゃれあったりして、

なかなかモルヒネ水を飲もうとしなかったのです。

さらには、「植民地ネズミ」で酩酊していた1匹を「楽園」に移すと、じゃれあい、交流するよう

になり、普通の水を飲むようになった
のです。




この実験結果から分かるのは、自らが置かれた状況を「檻の中」(孤独で、自身の自由な裁量を剥奪

された環境)
のように感じている人の方が、依存症質になりやすいということです。

依存からの回復のためには、檻に閉じこめて孤立させるよりも、コミュニティ仲間の中の方が

促進されるのです。つまり、安心できるつながりこそが必要なのです。




ひきこもり者たちはそもそもが孤立感を感じています。その要因のひとつは他者不信感です。

人に癒されず生きにくさを抱えた者の自己治療としてひきこもりはあります。

「どうせ自分の気持ちなど理解してもらえない」といったような思い込みがあり、困ったときでも

誰にも頼れないのです。

「安心できるつながり」先ずは、家族です。

家族が最良の理解者協力者になることで、本人は安心感を得られます。




ひきこもり者たちが抱えているトラウマの痛み、影響は、孤立無援状態で強化されてしまいます。

無援は無縁からです。人の支えの手厚さによって、傷つきの体験を安心感安全感によって置き換え

やすくなります。

痛みを理解し寄り添ってくれる人、慰め落ち着かせてくれる人が身近にいれば、自身に何が起きたのかを

理解でき、トラウマの永続的な影響を防ぐことができるのです。




斎藤氏は、「ひきこもりは、特殊な家庭環境で起こるわけではなく、ごくふつうの家庭でも起こり得る現象」

と述べておられます。

これは私もかねてから申し上げていることですが、ただ、何もないところで偶然起こるわけではもちろん

ありません。

人に癒されないといった状態になってしまっている背景が、その家庭環境の中にあります。

ごくふつうの、どこの家庭でも起こり得るということは、現代家庭が子育てにおいて、何か大切なことを

失ってしまっているということです。

次回述べてみましょう。






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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察⑤


ひきこもりを生み出さない社会を創り出すため、ひきこもる生き方を必要としなくなるためには、

求められる自分になることです。

それが、役に立つということです。

役に立てば、感謝されます。

感謝されることで、人は自己の存在意義を確認できるのです。




誰からも感謝されず、求められず、生きて存在していることすら気づかれない生活を死ぬまで続けて、

彼らが納得できると思いますか?

「ひとつの生き方としてあってもいいさ」といった変なひきこもり擁護論は、あまりにも無責任であり

当事者たちの思いをまったく度外視した自己陶酔的な偽善です。




ひきこもり者たちが、人を身近にせず、孤立した生き方を選んでしまうひとつの原因にあるのは、

人間関係をほどよく結べないというものです。

人間関係が円滑にできているか否かをはかるひとつのバロメーターを紹介しますと、

自分の周囲に感謝できる人がどれだけいるか。また、自分に感謝してくれる人がどれだけいるかです。




感謝できる人が数多くいれば、自分に何かを与えてくれたり、してくれたりしてくれている人が

それだけ多くいるということです。

自分に信用がなければしてもらえていません。

また、与えてくれたり、してもらえたりしていることを当たり前と思わず、感謝できる心を自分が

もてているということでもあります。

自分に感謝してくれる人が沢山いるということは、それだけ自分が周囲の役に立って愛されている

ということです。

感謝できる、感謝されることが多ければ、自ずと人間関係は円滑になります。




考察③
で述べた「より良い生き方」というのは、常に自己を成長させ、独自性を役立たせていく生き方です。

そして「生きていく意味」というのは、そのより良い生き方に基づき自己の「志(目標)」目的

実現していくことです。

そのような生き方ができるように子育てをしていれば、ひきこもる必要性などまったく生じませんので、

斎藤氏が言うように、予防するためにはひきこもりは悪という価値観をわざわざ植えつけなければ

ならないなんてことは無用なのです。



ひきこもる生き方を本人たちが、本心では一番望んでいないということを忘れてはなりません。

社会の偏見がなくなれば、減っていくといった問題ではないのです。

「ゆっくりお休みなさい」なんていう親切は、当人たちにしてみれば、大きなお世話という仇に

なりかねません。

彼ら、彼女らは、一日も早く、普通に戻りたいのですから。

(続く)







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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察④


ひきこもりは、ちょっとした一休みではなく持続的な苦悩です。

また、本人にとって苦しいだけではなく、社会にとっても大きな損失なのです。

なぜなら人材だからです。




当協会では、連携している民間事業体に、これまで多数の青年たちの就労の引き受け先として

お世話になっています。

5年、10年、10数年以上のひきこもり経験者たちです。

当協会での訓練を経たのち本人の希望に基づき就業しています。

その事業体から「いつも良い人材をありがとうございます」と評価を受けているのです。

彼らの仕事の丁寧さ、真面目さに対してです。

ある40代の男性は、「管理者候補です」とまで言って頂けました。

また、支援を請け負う前まではほぼネットゲーム依存だった青年が、公認会計士の資格に

一発合格しました。私自身会計事務所出身で、税理士受験脱落組でした(笑)ので、その難易度

の高さを充分認識している分、驚きです。

どうですか? ひきこもり者たちの中には、人材が埋もれているのです。




社会にとっての損失ということでいいますと、社会はそもそも相互扶助互助です。

生きるということは、それだけで誰かの支えを受けているわけで、いわば互いに迷惑を

かけあっているのです。

だからこそ、お互いさまの精神で、自分ができることで役に立つことをしていくのです。

子どもを躾ける際に「人様に迷惑をかけないように」と言いますが、それでは全く足りません。

だって迷惑を何ひとつかけないで生きるということは不可能だからです。

ですから「人様のお役に立つように」と躾けるべきなのです。

斎藤氏も、「ひきこもりは家族以外の第三者に何の迷惑もかけていない」と述べていますが、

そうではないことはもうお分かりですね。

この「役に立つ」ということが、ひきこもりを生み出さない社会を創り出すためにも、重要な

キーワードとなるのです。




社会にとっての損失ということについて述べてみましたが、実は最も大きな損失を被るのは

本人自身なのです。

あたかもひきこもり者たちに対して優しく擁護しているつもりが、現実は彼らの可能性を

抹消しかねないことに早く気づいてほしいと思います。

それについては次回述べてみましょう。

(続く)







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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察③


斎藤氏は、ひきこもりを予防する方法を子どもたちに適用するためには、まず「ひきこもりは良くない」

「ひきこもりになったら人生おしまいだ」という価値観を植えつけなければならないと述べておられますが、

これにもびっくりで、ここにも「ひきこもりはニュートラル」と言いつつ、自身いい悪いの見方で捉えて

おられることが現れています。




考察①でも紹介したように、氏は「予防すべきとは考えていない」との見解を示しておられます。

その理由は、予防法を適用するためには、ひきこもりを「悪}としなければならないからだと言うのです。

『「ひきこもりは予防すべき病気である」という価値観を社会全体が共有するのは本当に良いことでしょうか』

と問題提起し、社会全体に悪影響を与えることになると否定しておられますが、良くない病気であると

言っている(言える)のは、私たち一般人ではなく医者です。

斎藤氏自身もその医者であるわけで、医者がそう言わなければ一般人は悪い病気とは思いません。




私の地元の精神保健福祉行政主催による「支援者会議」の講師として登壇した精神科医は、

冒頭「ひきこもりは私たち精神科医がしゃしゃり出る問題では本来ありません」とはっきり仰っていました。

また、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所名誉所長の故吉川武彦先生は、「ひきこもりは、

精神医学的診断に馴染むものではない。現象であり、
病的あるいは病状として考える必要はない

と述べておられます。




予防するために何も「ひきこもりは良くない、悪いこと」なんて事前に教える必要なんかありません。

何度も言いますように、いいとか悪いとかではなく、ひきこもりは苦しいんです。

だから、悪いから予防しよう、無くそうではなく、より良い生き方を子どもたちに伝えていくことが結果、

予防になるのです。

将来、生き辛さを感じないで生きていけるような子育てが出来れば、自ずとひきこもる生き方を

必要とすることはなく
、結果防げるのです。

あえて「ひきこもりをさせないため」とかではなく、「より良く生きていくことや、生きていく意味を

認識させていくような子育て」
を行っていくことが、ひきこもりも発生させないことにつながるのです。

(続く)






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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察②


斎藤氏は、「ひきこもりを根絶するのが社会の浄化につながる」という価値観に支配された世の中で

あれば、精神的に参って死にたくなったとしても、外部に助けを求めることが許されない社会である

と述べておられます。

この考えは大げさというか極端です。




斎藤氏は、「働きアリの法則」(ここではその解説はしません。氏の著書をお読みください)

を持ち出し、無為で怠惰(に見える)ひきこもりが社会が円滑に活動を続ける上で必要とされると

述べておられます。

いい悪い(正しい、間違い)でひきこもりを見るからそういう発想になるのです。

氏は、自らひきこもりは価値判断とは無縁のニュートラルな状態といいつつ、根底にいい悪い

の価値判断が見受けられます。

だから変にひきこもりを擁護しようとしてしまい、悪ではないんだ必要なんだと。

「二割サボっても回る社会」を目指すほうがいいんだなんて、なんかおかしな理屈が出てくるんです。




「ひきこもることがふつうである社会」を目指すべきということですが、この辺りも読者に誤解を

与えかねないですね。

ふつうではなく、「あってもいい社会」を目指すべきです。

ひきこもりたくなることなど誰にでもあるのですから。

あってもいいんです。

しかし、前回も述べたように、ひきこもる必要もなければそれに越したことはないんです。

根絶しなければ社会の浄化にならないというほど悪いことをしているわけではありませんし、

だからと言って積極的にひきこもる必要もないわけで、ひきもらずにいられれば、それがいいんです。

影響力をもっている斎藤氏がこういう言い方をしてしまうから、現に、斎藤先生からお墨付きをもらった

みたいにひきこもりを肯定してしまうような家族会も出て来るのです。

ますます長期化が進むでしょう。

否定するものではありませんが、だからと言って肯定するものでもありません。

「解決」していくものです。

だって、苦しいんですから。

本人も家族も。




「ひきこもりのいない明るい社会」が意味がないと斎藤氏は述べておられますが、そんなことは

ありません。

ひきこもる必要のない人々の社会がどんなに素晴らしいことか。

斎藤氏は、傷を負った人間が休める、助けを求められる優しい社会が必要。社会がそうしないから、

ひきこもりが無くならないと言いたいのでしょう。

ひきこもりは、単に心が疲れたから一休みというのではないんです。

心の渇き飢え、そこからの恐怖です。

しかも激しい痛みを伴っています。

ですから、「ひきこもりのいない明るい社会」に、意味は大いにあるのです。

前回、斎藤氏と私の見解の違いは、実態の捉え方の違いと申しましたが、その一つがここにあります。

(続く)





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ひきこもり(不登校)~「中高年ひきこもり」考察①


1月1日のメルマガでもご紹介しました精神科医斎藤環氏の著書「中高年ひきこもり」について

私見を述べていきたいと思います。




氏は、「社会的ひきこもり」を著し、ひきこもりの第一人者と称されているほど影響力をもった

方だけに、読者に誤解を与えかねない記述に対して、支援者の立場からあえて異論を述べて

みたいと思います。

支援者は長期化をくい止めることが最大の使命ですので、25年間にわたる活動実績をエビデンス

として数回に分けて論じていきたいと思います。




最初に申し上げておきますが、当事者家族、関係者は是非「中高年ひきこもり」(幻冬舎新書)

は買い求められて、このブログを読んで頂けたらと思います。

一般書として、いつになく(失礼)私のような者でもとても読みやすい内容になっています。




さて、全体を読んでと言うよりも、最終結論としての斎藤氏の論調は、あまりにも社会の偏見を

強調し過ぎた、ひきこもり擁護論になっていると感じました。

氏は、「私は、ひきこもりを未然に防ぐべき、すなわち予防すべきだとは考えません」と述べています。

「ひきこもりもいる明るい社会」を目指すとあります。

ひきこもりを否定的に見る社会の目があるから減らない。

社会の目が変われば(偏見が無くなれば)激減すると。

果たしてそうでしょうか?




傷ついた人間にもっと寛容な社会であるべきだということで「苦しければ休養し、他人に助けを

求めることができる緩い社会」
を示しておられるのだと思いますが、それはもちろんその通り

ですので、ひきこもりはあってもいいのですが、ただ、ひきこもらなくていい自己を創ることを

推進していくべきだと私は思います。

ひきこもらなくて済めばそれに越したことはありません。

ひきこもりは、ただの休養とはわけが違うのですから。

当人たちは、やむに止まれず引きこもっています。




偏見、差別を無くすことでひきこもりを減らしていくというのは、飢えているから食糧を与える

というようなものです。(それが必要な段階ももちろんあります)

それよりも、食物自体を育てていく手立てを提供していくことこそ必要ではないでしょうか。

つまり、「ひきこもる必要のない人々の社会」を目指すことで、偏見、差別はそのままあっても、

ひきこもりは無くなっていくと私は思います。




斎藤氏の見解に限らず、昨今のメディアの論調は、ひきこもり者たちの声を度外視して、

「ひきこもりたいのは、認めてあげなければかわいそう」といった意思を感じます。

彼ら、彼女らの声を聴いてあげてください。

10年も20年も誰が好き好んでひきこもりたいなんて思っていますか。

自分が自分のままでいることを認めてほしいと、慟哭しています。

彼らが口をそろえて言うのは「普通になりたい」です。

斎藤氏も、「自傷的自己愛」を苦しみの中心に抱えていると、苦しみながらひきこもっている

と解説している一方で、「たまたま困難な状況にあるまともな人」と、ひきこもりを休養程度

に捉えているようにも感じられます。

斎藤氏との見解の違いは、実態の捉え方の違いからきているものと思います。

「ひきこもる必要のない人々の社会」がどういう社会か、これから述べてみましょう。

(続く)





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